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岡山地方裁判所 昭和62年(行ウ)5号 判決 1994年8月30日

原告

西山太一郎こと鄭太一

右訴訟代理人弁護士

山崎博幸

被告

倉敷市長 渡邊行雄

右訴訟代理人弁護士

石井辰彦

右指定代理人

八木實

原茂樹

中野武士

理由

一  本件処分

請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  本件処分の適法性

1  不許可理由の存在

〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。

倉敷市においては、毎年度、過去の人口、一般廃棄物(し尿・浄化槽汚泥)の収集運搬量の推移や前年度の実績等を参考にして、法六条一項に基づき、一般廃棄物処理計画(処理計画)を策定している。なお、同市における一般廃棄物の処理体制は、一部地区(児島地区及び玉島地区の一部)を除き、し尿と浄化槽汚泥とが概ね同一体制により収集運搬されることになっている。

原告が本件許可申請をなした昭和六一年度の処理計画は、し尿については、計画人口が二一万三七七七人、計画収集量が一〇万三八二一キロリットルであり、これに対する計画処理体制として、倉敷市直営により二万三〇五五キロリットル、許可業者一五社により八万〇七六六キロリットルを収集運搬するとの計画が、また、浄化槽汚泥については、計画人口が一四万一〇〇五人、計画収集量が四万七一四四キロリットルであり、これに対する計画処理体制として、右収集量すべてを許可業者一六社(うち一五社はし尿許可業者も兼ねる)により収集運搬するとの計画が、策定されており、昭和六一年度の処理計画により収集運搬すべきし尿と浄化槽汚泥の合計量は一五万〇九六五キロリットルとなっていた。

これに対し、倉敷市における昭和六一年度のし尿、浄化槽汚泥の収集運搬車両能力は、倉敷市直営のし尿収集運搬車両が二〇台、合計積載量が四万〇七〇〇リットル、許可業者(一五業者)のし尿浄化槽汚泥兼用車両が三〇台、合計積載量が五万七四〇〇リットル、同予備車両が一七台、合計積載量が四万四二〇〇リットル、許可業者(三業者)の浄化槽汚泥専用車両が七台、合計積載量が三万〇三〇〇リットルであり、以上の車両の合計台数が七四台、総合計積載量が一七万二六〇〇リットルであるから、倉敷市直営及び許可業者(一六業者)の一般廃棄物収集運搬車両の年間収集運搬能力は、前記各車両が一日四回、一か月二五日稼働するものとして計算すると、年間二〇万七一二〇キロリットルであった。

ちなみに、昭和六一年度の一般廃棄物の処理実績は、し尿が一〇万七二九五キロリットル、浄化槽汚泥が五万〇三三二キロリットルで、合計量は一五万七六二七キロリットルであり、その後の処理実績は、昭和六二年度が、し尿一〇万七九五七キロリットル、浄化槽汚泥五万三九九七キロリットル、合計量一六万一九五四キロリットル、昭和六三年度が、し尿一〇万六四八八キロリットル、浄化槽汚泥五万八四九五キロリットル、合計量一六万四九八三キロリットル、平成元年度が、し尿一〇万五三三八キロリットル、浄化槽汚泥六万二〇八九キロリットル、合計量一六万七四二七キロリットル、平成二年度が、し尿一〇万五六四六キロリットル、浄化槽汚泥六万二四三二キロリットル、合計量一六万八〇七八キロリットル、平成三年度が、し尿一〇万二六五三キロリットル、浄化槽汚泥六万六八六六キロリットル、合計量一六万九五一九キロリットルであった。なお、倉敷市におけるし尿、浄化槽汚泥の収集運搬は、児島地区全域と玉島地区の一部のし尿を倉敷市直営で、その他の地区のし尿と市内全域の浄化槽汚泥を一六の許可業者(児島地区に限定された浄化槽汚泥のみの一業者と、し尿・浄化槽汚泥両方につき許可された一五業者)によりなされているところ、被告においては、将来、公共下水道の普及による、し尿・浄化槽汚泥の減少を見込んで、昭和五四年以降現在まで、右許可業者の数及び許可内容を増加していない、また、倉敷市及び許可業者が保有する前記収集運搬車両の台数、積載量も、昭和五八年以降増加していない。

このような状況下で、倉敷市においては、し尿・浄化槽汚泥の収集運搬に関しては、料金や収集日の連絡、確認の行き違い等によるもの以外は、住民からの苦情もなく、処理されている。

ところで、一般廃棄物の処理に関する事務は、本来、市町村の固有の事務(地方自治法二条九項、同法別表第二、二、(十一))であり、法の規定(六条)によっても、原則として市町村の義務とされているが、市町村自身が、当該地域全域にわたり、直接又は委託によって一般廃棄を処理することが困難な場合もあるので、処理計画において処理の分担を定め、自ら処理しない部分については、法七条に基づき許可を与えた業者により代行することも可能とされているものである。右のような法の趣旨や法第七条の文言に照らして考えると、同条二項の一号から四号までの各要件に適合するか否かについては、当該市町村の実情に応じて、一般廃棄物処理事務の円滑完全な遂行に必要適切であるか否定かという観点に立った判断を要するものであるから、市町村長は、右判断にあたって裁量権を有しており、その判断が、社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、違法となるものではないと解するのが相当である。

これを本件処分についてみると、前記認定の事実関係によれば、昭和六一年度の処理計画により収集運搬すべきし尿と浄化槽汚泥の合計量が一五万〇九六五キロリットルであったのに対し、同年度の同市における、同市直営及び既存の許可業者が保有するし尿と浄化槽汚泥の収集運搬車両の年間収集運搬能力は、二〇万七一二〇キロリットルであり、なお、同年度の処理実績(一五万七六二七キロリットル)も併せ考えると、当時、同市においては、し尿、浄化槽汚泥の収集運搬につき、十分余裕をもって対処することができていたことが認められ、右事実に鑑みると、本件処分に表示したとおり「現在、本市における一般廃棄物(し尿・浄化槽汚泥)の収集運搬及び処分に困難はない」状況が存在したことが認められる。

そうすると、被告において、浄化槽汚泥の収集運搬につき新たに許可を与える必要はなく、本件許可申請は、処理計画に適合しないことに帰し、法七条二項二号の要件を満たしていないことになるものというべきである。従って、本件処分は適法である。

2  法七条二項一号との関係

原告は、「被告の主張に対する原告の認否及び反論」2のとおり主張するが、仮に本件許可申請が法七条二項一号の要件は満たすものであるとしても、前項説示のとおり、倉敷市においては、現在、一般廃棄物の収集運搬及び処分に困難はない状況にあり、浄化槽汚泥の収集運搬につき新たに許可を与える必要はないから、本件許可申請は処理計画に適合しないことに帰し、法七条二項二号の要件を満たすことになるものというべきであり、本件処分に不適法事由はない。

3  収集量の増加傾向及び既存許可業者の権益保護

原告は、「被告の主張に対する原告の認否及び反論」3のとおり主張する。しかし、昭和六一年度以降の倉敷市におけるし尿、浄化槽汚泥の処理実績は、前記1で認定したとおりであって、確かに、浄化槽汚泥については、年々漸増の傾向にあるものの、倉敷市直営及び許可業者が保有するし尿、浄化槽汚泥の収集運搬車両による前記年間収集運搬能力に鑑みると、現在においても、未だ倉敷市におけるし尿、浄化槽汚泥の収集、運搬は、余裕をもって適切に処理できる状態にあるというべく、なお、将来的には、公共下水道の普及によるし尿、浄化槽汚泥の収集運搬量の減少も予想されることも併せ考えると、被告が、原告のような新規業者を許可しないことには合理性があるというべきである。むしろ、右のような処理実績をもとに策定された処理計画に照らして、必要とする以上の業者に許可を与えると、業者の過当な競争により、経営状態を悪化させ、それが倉敷市における円滑適正な一般廃棄物処理事務の遂行に弊害を招きかねないものであって、このような考慮の結果、倉敷市において、一般廃棄物の処理業につき事実上新規業者の参入ができないことになるのは、一般廃棄物処理事務の前記性格(元来が市町村の固有事務であること)に鑑みると、やむを得ないものといわざるを得ない。

従って、本件においては、原告が主張する事由は、裁量権の濫用、逸脱事由に該当せず、被告において、本件処分をなすにあたり裁量権の濫用、逸脱があったと認めることはできないといわなければならない。

4  浄化槽清掃業の許可申請との関係

また、原告は、「被告の主張に対する原告の認否及び反論」4のとおり主張するが、一般廃棄物処理業については、浄化槽清掃業とは別個の趣旨目的をもつ法により、その許可要件が厳格に定められているものであり、原告の浄化槽清掃業の許可申請を考慮して許可しなければならないものではなく、原告の主張は採用できない。

5  以上によれば、本件処分は、適法かつ妥当なものといわなければならない。

三  結論

よって、原告の請求は、理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 矢延正平 裁判官 德岡由美子 濱本章子)

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